- SSTとは何か——FTPの88〜94%という強度帯が「スイートスポット」と呼ばれる科学的な理由
- なぜ「20分」なのか——10分でも30分でもなく、20分が最適解とされる生理学的メカニズム
- SST 2×20分メニューの具体的なやり方と、レスト・ケイデンス・心拍の目安
- 「SSTがきつすぎる」ときに疑うべきFTP過大評価の見抜き方と対処法
- SST 20分を週何回・何週間続ければFTPは上がるのか、漸進的な負荷の組み方
- ランプテストと20分テストの違い、0.95をかける理由の正しい理解
- SSTとテンポ走の違い、分極化トレーニング(ポラライズド)との使い分け
- 室内ローラーでのSST実践における室温・扇風機・エアコンの環境設定
はじめに
ちくしょう! またあの坂で置いていかれた。
日曜のグループライドで、登り口に差しかかった途端にペースが上がる。
必死に食らいつくものの、じわじわと開いていく背中。
ゼーハーと肩で息をしながら、自分だけが取り残されていくあの感覚——
経験したことがある方は、きっと少なくないでしょう。
平日の夜、ローラー台に跨がってZwiftの画面を睨みつける。
FTPの90%、サイコンに表示される出力は「なんとか踏めるはず」の数字。
ところが15分を過ぎるころから脚がずっしり重くなり、心拍だけが天井知らずに上がっていく。
あと5分。頭の中で「もう止めたい」がぐるぐる回って、20分のインターバルが終わったときにはハンドルに突っ伏すのがやっと。汗がポタポタとフローリングに落ちていきます。
——で、これ、本当に効いてるのか?
SST(スイートスポットトレーニング)は
「時間効率が最高」
「忙しい社会人の味方」
と持ち上げられる一方で、
「きつすぎて続かない」
「何週間やってもFTPが上がらない」
という声が後を絶ちません。
そもそもSSTの「20分」という設定には、単なる慣習ではない明確な生理学的根拠が隠れています。
筋肉の代謝適応と精神的疲労の限界点が、ちょうどこの時間で交差するのです。
30年以上にわたり、ライダーに携わってきた経験から、ひとつ断言できることがあります。
SSTは正しく理解し、正しく実行すれば、週6〜10時間のトレーニングで最大限のFTP向上をもたらす、もっともコストパフォーマンスの高い練習法です。
ただし「正しく」の部分を外すと、ただの苦行になる。
この記事では、その正しさの全貌を科学的根拠とともにお伝えしていきます。
焦燥感とミトコンドリア——「ちょうどいい苦しさ」に隠された代謝の仕掛け

FTPの88〜94%——数字の意味を体感で掴む
SST(Sweet Spot Training)は、Frank Overtonが考案し、運動生理学者のAndrew Cogganと共に体系化したトレーニング強度帯です(TrainerRoad, 2025; FasCat Coaching, 2023)。
ここで押さえておきたいのが、FTPそのものの正確な理解でしょう。
FTPは「おおむね30〜60分、目安として約1時間維持できる準最大の持続可能パワー」と捉えるのが適切です。
かつては「1時間維持できる最大パワー」と断定されがちでしたが、実際の疲労困憊までの時間(TTE)は個人差が大きく、40分から70分の幅があることが研究で示されています(Bonkwerx Endurance Sports, n.d.)。
仮にFTPが250Wの方であれば、SSTの出力帯は220W〜235Wあたり。
全力の88〜94%ですから、「快適ではないけれど、耐えられないほどではない」という微妙な領域になります。
なんとも絶妙な苦しさ。
RPE(自覚的運動強度)でいえば10段階の7前後で、会話は途切れ途切れになるけれど一言二言なら返せる——そんな感覚をイメージしてもらえればよいでしょう。
テンポ走や閾値走とはどう違うのか
SSTの立ち位置を理解するには、パワーゾーンの全体像を俯瞰するのが早道です。
Cogganのクラシックなゾーン定義では、テンポ走がFTPの76〜90%、閾値走が91〜105%とされています(TrainerRoad, 2025)。
SSTはこのテンポと閾値の境界付近、いわば「はざま」に位置する強度帯にあたります。
流派によってゾーンの境界値は異なるため、厳密な数値にこだわりすぎる必要はありません。
とはいえ、体感の違いは明確に存在するものです。
テンポ走は「このペースならあと1時間は余裕で続けられそう」と感じる強度。
SSTはそこから一段上がり「20分は踏めるけれど60分は相当しんどい」という領域。閾値走になると「20分が限界」という壁が見えてきます。
この「テンポよりキツいが閾値ほど消耗しない」という絶妙なポジションこそが、SSTが”Sweet Spot”——最適なバランス点——と名付けられた理由にほかなりません。
身体の中で何が起きているのか——ミトコンドリアと乳酸シャトル
ここでは、人間の生理学的なメカニズムの話が続きますが、これらの人間のカラダに備わったメカニズムは、これからSSTやFTPを向上するためにトレーニングに励むつもりであれば、知っておいた方が良いかと思います。
がむしゃらにトレーニングするより、もっと楽にトレーニング効果を上げる方法はを今回お教えいたします。
ここを理解すれば、なぜ楽なのにトレーニング効果が上がるのか、理解することが早いからです。
もちろん興味がない方は、飛ばしてもらって一向にかまいません。
さて、SSTの真価は、体内の代謝適応メカニズムを知ると鮮明に浮かび上がります。
まず注目すべきは、ミトコンドリアの増加です。
ミトコンドリアは、いわば細胞内の「発電所」と考えてよいと思います。
つまりその数と容量が増えれば、同じ出力をより楽にこなせるようになる——
これがFTP向上の土台となるわけです。
もうひとつ見逃せないのが、乳酸処理能力の向上でしょう。
現代の運動生理学では、乳酸は疲労の原因物質ではなく、エネルギーとして再利用される重要な物質と考えられています。
筋肉内にはMCT(モノカルボン酸トランスポーター)というタンパク質が存在し、なかでもMCT1は遅筋線維に多く発現して乳酸の取り込みと酸化を担っています。
9週間の持久力トレーニングにより、MCT1の総量が筋肉全体で約90%増加したとする研究報告もあるほどです(Pilegaard et al., 1999)。
さらに重要なのが、VLamax(最大解糖系容量)の抑制効果です。
Sebastian Weberらが提唱するINSCYDモデルによれば、持久的パフォーマンスはVO2maxとVLamaxのバランスで決まるとされています(Fast Talk Labs, n.d.)。
SSTの長めのインターバルは速筋線維を動員しつつも有酸素的代謝を強制するため、無酸素系への依存度を意図的に引き下げる効果があるのです。
VLamaxが抑えられれば、VO2maxが変わらなくても耐性(乳酸が増えても筋肉を動かし続けられる能力)が向上し、FTPが底上げされます。
つまりSSTは、「有酸素エンジンの効率を極限まで高め、無酸素エンジンの暴走を抑え込む」ためのトリガーといえるでしょう。
kira
トレーニングと乳酸との闘い
トレーニングを行うときに、有酸素運動から無酸素運動に強度を上げると、筋肉が硬直したようになり次第に動かなくなります。
これは、筋肉内に乳酸を蓄積させて、激しい運動から筋肉を守る人間に備わった防御反応システムです。
有酸素運動では、乳酸は分解されて筋肉内にはそれほど蓄積しません。そのために、低負荷でのトレーニングでは長時間行うことができるのです。
しかし、少しずつ強度を上げると、乳酸が蓄積し始めるポイントが「乳酸閾値」といわれています。
SSTは、乳酸値が蓄積するポイントの限界を引き上げるためのトレーニング手法なのです。
さあ、次の章からは、SSTトレーニングをいかに楽しみながら効果的に引き上げるか、今回の佳境の話に入っていきます。
絶望と20分の境界線——生理学と精神力が交差する瞬間

10分では足りず、30分では削られすぎる
まだ、ついてきてますか?
頭の中を整理しつつ、次に行きます!
SSTのインターバル時間に20分が頻繁に採用されるのは、偶然でも慣習でもありません。そこには「定常状態の構築」と「回復コストのバランス」という2つの生理学的な軸が関係しています。
10分以下の短いインターバルでは、心拍数や酸素摂取量、血中乳酸濃度が完全にピークへ達する前にインターバルが終了してしまいます。
一方、60分間の連続SST走行は多くのライダーにとって、限界までの時間に限りなく近づく過酷な強度になります。
グリコーゲンが枯渇するほどの著しい消費を招くため、グリコーゲン貯蔵量が回復するまで十分な栄養と休養が大きな負担になってしまいます。
そこで、それらの中間点に当たる20分という時間は、定常状態を維持しつつトレーニング効果を十分に引き出す「最低限なトレーニング効果」をクリアし、かつ過度な筋損傷やオーバートレーニングを回避する絶妙なバランス点にあります。
実のところ、15分〜20分を最小ブロックとする推奨は多くのコーチや研究者に支持されている考え方です。
脚より先に心が折れる——精神的疲労という隠れた壁
SSTが20分で区切られるもうひとつの理由は、精神的疲労の管理にあります。
近年の研究では、トレーニング負荷によって精神的に疲労した状態では、心拍数や血中乳酸濃度に変化がないにもかかわらず「主観的運動強度」が早期に上昇し、限界までの時間が大幅に短縮されてしまうことが実証されました。
ある研究では、精神的疲労状態の男性ライダーで限界までの時間が33%低下したと報告されています(PMC, 2024)。
このように、精神的なキツさが身体的なパフォーマンスに影響することは、科学的に立証されている事実なのです。
SST帯域は「快適ではないが耐えられないほどではない」という微妙な苦しさです。
この強度で40〜60分連続してペダルを回し続ける行為は、筋肉の疲労より先に中枢神経系の消耗を引き起こしやすいものです。
そのため、SSTの効果的なトレーニングは、20分ごとに3〜5分のレスト(軽いペダリング)を挟むことで、血中乳酸濃度の急降下を防ぎつつ、身体・精神的なリセットが可能になります。
「メンタルをすり減らさずに高いトータルTSSを安全に稼ぐ」——
これが20分サイクルの戦略的な合理性です。
20分ブロックはフィットネスの「健康診断」にもなる
20分という単位には、トレーニング効果を測る診断ツールとしての顔もあります。
人間のカラダは、一定パワーで運動を続けると、体温上昇や脱水などの影響で心拍数が徐々に上昇する現象が生じます。
このズレの程度を定量化(数値化)するのが、Pw:Hr(有酸素性ディカップリング)という指標です(TrainingPeaks, n.d.)。
具体的な算出方法は以下のとおりです。
- 取得方法: 20分インターバルを前半10分・後半10分に分割し、それぞれの平均パワーと平均心拍数を記録する
- 計算式: EF(効率係数)= 標準化パワー ÷ 平均心拍数。
Pw:Hr =(前半EF − 後半EF)÷ 前半EF × 100 - 結果: この乖離率が5%未満に収まっていれば、有酸素ベースがその出力に対して十分に構築されている証拠
もし、インターバル後半で心拍が異常に跳ね上がるなら、有酸素ベースが追いついていないサインかもしれません。
各インターバルのPw:Hrを比較・分析することで、オーバートレーニングや基礎的な心肺系パフォーマンス不足を早期に発見できます。
20分単位のセッションは、これらの優れたモニタリング評価手法としても機能するのです。
汗と達成感の設計図——SST20分メニューの正しいやり方とパラメータ設定

基本メニュー「2×20分」の全手順
SSTの代表的メニューは「2×20分」。世界的にも広く紹介されている王道の構成です(British Cycling, n.d.; TrainingPeaks, n.d.)。
手順を整理しましょう。
ウォームアップ(15〜20分): 軽いペダリングで体を温めます。途中に30秒〜1分の高回転走(100〜110rpm)を2〜3本挟むと、神経系が目覚めやすくなるでしょう。
1本目のSST走(20分)
FTPの88〜94%を維持します。
最初の5分は88%付近から入り、体が馴染んだら90〜93%へ引き上げるのがペーシングのコツです。いきなり94%で突っ込むと後半でタレやすく、完遂率が落ちてしまいます。
レスト(5分)
軽いペダリング。血液が下半身に滞留しないように完全停止は避け、血中乳酸濃度の急降下とウォームアップ効果の喪失を防いでください。
2本目のSST走(20分)
1本目と同じ要領で。心拍の推移を注視し、1本目後半との差異が大きければ1〜2%落としても問題ありません。
クールダウン(10〜15分)
軽いペダリングでゆっくりと。
ゾーン内滞在時間は40分、総ワークアウト時間は65〜80分程度になります。
ケイデンス・心拍・RPEの目安を正しく理解する
ケイデンス
一般的には85〜95rpmが効率的とされますが、VLamax抑制を狙う場合はやや低めの75〜85rpmが有効です。
低ケイデンスはパワーをつかさどる速筋線維の動員を増やし、有酸素的代謝への強制転換を促すためです(Scientific Triathlon, n.d.)。
ただし膝への負担が増えるため、初心者はまず85〜90rpmを基準に始めるのが安全でしょう。
心拍数
SST中の心拍を「最大心拍の88〜93%」と画一的に規定する記述を見かけますが、これには注意が必要です。
心拍は脱水、暑熱、疲労、カフェイン摂取など多くの要因で変動するため、パワーメーターとRPEを主軸に据え、心拍はあくまで補助指標として活用するのが堅実な運用法になります。
RPE(主観的運動強度)
10段階で6〜7。
「しっかりキツいけれど、このペースならあと10分は続けられそう」と感じる程度です。
8に達しているなら、強度が高すぎるかFTP設定が過大評価されている可能性があります。
レスト時間——短すぎも長すぎもNGな理由
インターバル間のレストは3〜5分が一般的な目安です。
レストが短すぎる(1〜2分)と、心拍が十分に下がらないまま2本目に突入すると、質が著しく低下します。
逆に長すぎる(10分以上)と、ウォームアップ効果が薄れて体が「定常状態モード」から抜けてしまいます。
さらに、5分のレスト中もペダルは軽く回し続けることを心がけてください。
完全停止してスマホをいじり始めると、身体も心も冷えてしまい再始動のハードルが格段に上がります。
「回復は能動的に」が鉄則です。
室内ローラーの盲点——室温・扇風機・エアコンの管理
ローラー台でのSST練習では、環境温度の管理が想像以上に重要になります。
室内では走行風がないため体温が急速に上昇し、同じ出力でも心拍が10〜15bpm高く出るケースは珍しくありません。(※に説明あり)
※ 一定ペースの運動中に脱水、暑熱、疲労が原因で血液量が減少し、心臓が一回に送る血液量(一回拍出量)を補うために、心拍数が急上昇する現象が起きるため
kira
室内トレーニングについて
スポーツジムでランニングマシン・バイク、あるいはローラー台でのトレーニングお気づきかと思いますが、低い強度なのに以外にも心拍数が上がってしまう経験はありませんか?
これは、体調が悪くて、心拍数が上がってしまうのではありません。これが、「環境温度の管理」の難しさです。
自宅であれば、扇風機を使用し体の熱を放散してあげましょう。
その結果、主観的運動強度が実際の代謝負荷以上に跳ね上がり、「スイートスポットなのにきつすぎる」と感じてしまうのです。
その対策はシンプルですが効果は絶大な方法があります。
扇風機を正面から当て、室温を18〜22℃程度に保つことを強くお勧めします。
エアコンの冷房との併用がベストですが、冬場は窓を開けて外気を取り込むだけでも大きく改善するでしょう。
「扇風機は最高のトレーニングギア」——冗談ではなく、多くのプロコーチが口を揃えて言うことです。
パワーメーター・ローラー台を持っていない方へ——SSTの恩恵を最大化するなら、まず正確なパワー計測が第一歩です。おすすめはこちら
挫折感とFTPの嘘——「きつすぎる」を解決する処方箋

FTPの過大評価はなぜ起きるのか
「SSTなのに20分持たない」
「RPE(主観的運動強度)が8〜9に達してしまう」
——この悩みを抱える方は、まずFTPの設定値を疑ってみてください。
過大評価が生じる典型的な原因は3つあります。
①20分テストで算出した値が無酸素性の貢献によって膨らんでいるケース
20分テストでは事前に5分間の全力走を行い、無酸素エネルギーを消耗させてから計測するのですが、この5分走を手加減してしまうと20分走の平均パワーに無酸素的な上乗せが残り、×0.95をかけてもFTPが実際より高くなりがちです(Favero, 2025)。
②ランプテストの特性
ランプテストは再現性が高く手軽な反面、無酸素性能力が高いライダーではFTPを過大評価しやすい傾向が報告されています。
20分テストとの差が10W以上あるなら要注意でしょう。
③Zwiftやスマートトレーナーの自動検出機能が、過去の短時間高出力データを過度に重視してしまうパターン
いずれの場合も、「SSTの体感がRPE7を明らかに超える」なら設定値を3〜5%引き下げてメニューを試すのが現実的な対処法です。
20分テストの「×0.95」——なぜ5%引くのか
20分テストの平均パワーに0.95をかけてFTPを推定する方法は、Allen & Cogganによって広く普及しました(TrainingPeaks, n.d.)。
この「5%引き」の根拠はこうです。
20分は1時間より短いため、解糖系(無酸素系)からのエネルギー供給が相対的に大きくなります。
その分だけ20分の平均パワーはFTP(≒60分持続可能パワー)より5%程度高くなる傾向がある。だから5%を差し引いて補正する、という理屈になります。
ただし、これはあくまで「推定」です。
無酸素性能力が極端に高い方では0.95をかけてもFTPが過大評価されるケースがあり、逆に持久力型の選手では過小評価になるケースもあります。
テスト結果を鵜呑みにせず、実際のSST走行時の体感やPw:Hrのデータと照合しながら微調整する姿勢が大切です。
ランプテストと20分テスト——どちらを選ぶべきか
ランプテストの算出方法を正確に押さえておきましょう。
- 取得方法: 1分ごとに一定のワット数で負荷を上げ、限界まで追い込む
- 計算式: 維持できた最後の1分間平均パワー(MAP:Maximal Aerobic Power)× 0.75
- 結果: 無酸素運動能力の影響を補正した推定FTP値
テスト時間が10〜15分程度と短く、精神的ハードルが低いのがランプテストの利点です。
一方で20分テストは、ペース配分能力や精神的耐性も含めた「実戦的なFTP」を測定できます。
20分間一定ペースで踏み続ける能力はSST本番の遂行力と直結するため、SSTを主軸にトレーニングする方には20分テストのほうが整合性は高いといえるでしょう。
どちらが優れているかというよりも、「同じ方法で定期的に測定し変化を追う」ことが最も重要と考えられます。テスト方法とトレーニング設計が一貫していれば、どちらでも有用なデータが得られるはずです。
希望と戦略の積み重ね——SST20分の効果を最大化する頻度・期間・漸進的負荷

週何回が適切か——イージーな日の価値を見落とさない
SSTの実施頻度として「週2〜3回」が広く推奨されていますが、この数字はあくまで目安に過ぎません。
他の練習との兼ね合いや個人の回復力によって最適解は変わってくるでしょう。
この強度帯はテンポ走より回復コストが高く、閾値走よりは低い中間的な性質を持っています。
週2回のSST+1〜2回のゆっくりとしたペースでのライドという組み合わせは、週6〜10時間のライダーにとって現実的なスタートラインになるでしょう。
CTLや睡眠の質、日常のストレスも考慮し、「翌日に極端な疲労が残らない」頻度へ調整してみてください。
週3回以上を詰め込むと、交感神経優位の状態が持続し、いわゆるトレーニングの「単調性」が生じやすくなります。
イージーな日を確保することが、トレーニング効果を最大限に生かす上で同じくらい重要だという点は、意外に見落とされがちではないでしょうか。
どれくらい続ければFTPは上がるのか
これについては個人差もあり、人によって効果はまちまちなので、一般的な説明をいたします。
筋肉内のミトコンドリアやMCT1の適応は、一夜にして起こるものではありません。
一般的には4〜8週間の継続的な取り組みにより、FTPの測定可能な向上が期待できるとされています。
ふと気になるのが「ずっと同じ強度だけでいいのか」という疑問ですね。
答えはNoです。
長期間にわたりSST帯域のみを続けると、身体がその代謝ストレスに完全に適応してしまい、トレーニング効果が停滞する「SSTプラトー」と呼ばれる現象が起こります(Wahoo Fitness, n.d.)。
理想的には、4〜6週間のSST重点ブロックの後にVO2maxインターバル(FTPの105〜120%、3〜5分走)のブロックへ移行することが良いとされています。
SSTで築いた「乳酸を処理する器」が大きいほど、VO2maxインターバルで発生する大量の乳酸を素早くエネルギーに変換でき、より高い出力で高強度セッションを完遂できるようになります。
「ベースがピークの高さを決める」——この相互補完の関係こそ、長期的な成長の鍵です。
漸進的負荷の正しい組み方——強度ではなく「時間」を伸ばす
SSTに慣れてくると「もっとワット数を上げよう」と考えがちですが、これは最も陥りやすい罠のひとつです。
FTPの95%以上に引き上げた瞬間、それはSSTではなく閾値トレーニングに変わり、自律神経系へのストレスと回復コストが跳ね上がります。
正しい漸進的な過負荷は、「強度を88〜93%に保ったまま、TiZ(ゾーン内滞在時間)を延長すること」なのです。
以下の段階的プログレッションを参考にしてください。
| フェーズ | メニュー構成 | 合計TiZ | 目的 |
| 導入期 | 3×15分(レスト5分) | 45分 | SST強度への適応。Pw:Hrの確認 |
| 基盤構築1 | 2×20分(レスト5分) | 40分 | 定常状態の確立。MCT1の最適化 |
| 基盤構築2 | 3×20分(レスト5分) | 60分 | TTE延長。メンタル管理を学ぶ |
| 拡張期1 | 2×30分(レスト5分) | 60分 | VLamaxの強力な抑制 |
| 拡張期2 | 3×30分(レスト5分) | 90分 | 上級者向け。FTP再評価を推奨 |
15分未満のインターバルでは定常状態が構築されにくいため、少なくとも15〜20分を最小ブロックとすることが推奨されています。
分割メニューの効果——「合計20分」の疑問に答える
「12分×3本のように分割しても効果はある?」これは非常に多い質問です。
結論として、合計TiZが同等であれば一定の効果は得られます。
ただし、定常状態の構築と維持という点では、連続20分のインターバルに軍配が上がるでしょう。
12分では心拍数や酸素摂取量が最高レベルに達しきらない可能性があり、MCT1のフル稼働に必要な代謝シグナルが弱まる可能性があります。
とはいえ「20分は精神的にどうしても無理」という段階であれば、12分×3本や15分×3本からスタートし、徐々にインターバル長を伸ばすアプローチは十分に合理的です。
完遂できないメニューより、やり切れるメニューのほうが遥かに価値がある。完璧を敵にしないことが継続の秘訣でしょう。
Q&A——現場で生まれる疑問に、ひとつずつ答える

- SSTのTSS(トレーニングストレススコア)はどれくらいですか?
TSSはパワー・時間・強度係数(IF)から算出されます。
SSTのIF目安は0.88〜0.94で、たとえば2×20分のSST(IF=0.90)にウォームアップとクールダウンを加えた75分のセッションでは、おおよそTSS 60〜70程度になるのが一般的です。IFが0.88〜0.94の範囲に収まっていれば、SST域で走れている証拠と判断できます。
- ERGモードでSST中、心拍がどんどん上がっていくのは正常ですか?
ある程度の心拍数の上昇は正常です。
20分インターバルの前半と後半でPw:Hr(有酸素性ディカップリング)が5%未満であれば、有酸素ベースは適切に構築されています。ただし後半でLTHRを大きく超えVO2max域にまで上昇するようであれば、FTP設定の過大評価か室温管理の不備を疑ってみてください。
- SSTをやっても効果が感じられません。原因は?
効果が出ない主な原因は、
①FTPの過大評価(実際はテンポ域にもなっていない)
②回復不足(週に詰め込みすぎ)
③単調性(同じ強度のみ数ヶ月以上継続)
の3つです。まずFTPを再測定し、次にトレーニング以外の生活要因(睡眠・栄養・ストレス)を見直しましょう。
それでも停滞するなら、VO2maxインターバルへのブロック移行を検討する時期かもしれません。
- SST途中で中断してしまった場合、どうリカバリすれば?
2本目の途中で脚が止まることは珍しくありません。
無理に再開するよりも5〜10分のリカバリペダリングを挟み、出力を3〜5%落として残り時間をこなすほうが、トレーニング効果の確保という観点では有益です。「予定どおりに完遂できなかった自分を責めない」こと。
完遂率が60%を切る状況が続くなら、FTP設定の見直しを優先してください。
- ZwiftでおすすめのSSTワークアウトは?
Zwiftには複数のSST系ワークアウトが内蔵されています。
「SST (Short)」
「SST (Med)」
といったメニューが初心者にも取り組みやすく、慣れてきたらTrainerRoadやTrainingPeaksのカスタムワークアウトをZwiftにインポートする方法もあるでしょう。ERGモードでパワーが自動制御されるため、ペーシングに集中する必要がなく完遂率が上がるのは室内SSTの大きな利点です。
まとめ:SST20分は「忙しいサイクリスト」の最強の武器

ここまで読み進めてくださった方に、感謝いたします。
今回は、生理学的なメカニズムの説明が多く、読むのがしんどかったでしょうか?
この記事で見てきたとおり、SST 20分サイクルは「なんとなくキツい練習」ではありません。
MCT1の発現による乳酸クリアランスの向上、ミトコンドリア生合成の促進、VLamaxの抑制、そしてType IIa線維の有酸素化——
明確な生理学的トリガーを引くための、科学に裏打ちされた精密なツールです。
忘れてはならないのは、20分という単位に「精神的疲労を管理し、メニュー完遂率を高める」という人間的な配慮が織り込まれていることが大きなポイントです。
脚だけでなく心のスタミナにも寄り添った設計——それがSSTの真骨頂でしょう。
重要なポイントを振り返ります。
SST強度はFTPの88〜94%でテンポ走と閾値走の間に位置すること。
漸進的負荷はワット数を上げるのではなくTiZ(時間)を伸ばすこと。
週2〜3回を目安に4〜6週間のブロックで取り組み、その後VO2maxインターバルへ移行すること。
そして何より、FTPの設定が正確であることがすべての前提条件であること。
さあ、次のライドで「20分の魔法」を体験しよう
来週の練習メニューに、まずは1本の「SST 20分」を組み込んでみてください。
いきなり2×20分でなくて構いません。
15分×2本からでも、12分×3本からでも大丈夫です。
大切なのは「正しい強度で、正しい時間、最後まで踏み切ること」です。
ワークアウトが終わったとき、あなたの脚には「定常状態を20分間維持した」という確かな代謝シグナルが刻まれているはずです。
これは、身体的な効果だけではなく心理的な効果もあるため、次回のトレーニングへのモチベーションにもつながります。
その積み重ねが、4週間後、8週間後のFTP再測定で数字となって返ってきます。
次の週末、いつもなら息が上がるあの峠で、驚くほど静かな自分の呼吸に気づくはずです。ローラー台の上で流した汗は、確実にあなたの脚を軽くする。
その未来を信じて、今日もペダルを回しましょう。
参考文献・引用
※本記事は以下の資料・データに基づき作成しました。
※安全に関する注意:ロードバイクは車両です。道路交通法を遵守し、ヘルメット着用、適切な装備での走行を心がけてください。
- TrainerRoad. (2025). What Is Sweet Spot Training: Everything You Need to Know. Retrieved February 22, 2026, from
https://www.trainerroad.com/blog/sweet-spot-training-everything-you-need-to-know/ - TrainerRoad. (2022). Sweet Spot Intervals: How to Execute Them. Retrieved February 22, 2026, from https://www.trainerroad.com/blog/sweet-spot-intervals-how-to-execute-them/
- Bonkwerx Endurance Sports. (n.d.). Demystifying Power – FTP. Retrieved February 22, 2026, from
https://bonkwerx.com/demystifying-power-ftp/ - Pilegaard, H., et al. (1999). Endurance training, expression, and physiology of LDH, MCT1, and MCT4 in human skeletal muscle. American Journal of Physiology-Endocrinology and Metabolism, 276(2), E375–E382.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10751188/ - PMC. (2018). Finding the metabolic stress ‘sweet spot’: implications for sprint interval training-induced muscle remodelling. The Journal of Physiology.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6166080/ - PMC. (2024). The effect of performing mental exertion during cycling endurance exercise on fatigue indices: sex dependent differences.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11973343/ - PMC. (2012). Physiological adaptations to low-volume, high-intensity interval training in health and disease.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3381816/ - FasCat Coaching. (2023). How Much Sweet Spot Training Should You Do? Retrieved February 22, 2026, from
https://fascatcoaching.com/blogs/training-tips/how-much-sweet-spot-training - Wahoo Fitness. (n.d.). What is Sweet Spot Training for Cycling? Retrieved February 22, 2026, from
https://www.wahoofitness.com/blog/ask-experts-sweet-spot-training/ - Fast Talk Labs. (n.d.). How to Balance Your VLamax, with Sebastian Weber. Retrieved February 22, 2026, from
https://www.fasttalklabs.com/fast-talk/how-to-balance-your-vlamax-with-sebastian-weber/ - TrainingPeaks. (n.d.). How to Maximize Aerobic Training. Retrieved February 22, 2026, from
https://www.trainingpeaks.com/blog/maximize-aerobic-training/ - INSCYD. (n.d.). Why You Don’t get faster Threshold Intervals. Retrieved February 22, 2026, from
https://inscyd.com/article/physiology-threshold-training/ - Favero. (2025). The FTP Test: What is it and how to do it. Retrieved February 22, 2026, from
https://cycling.favero.com/blog/ftp-test-what-it-is-and-how-to-do-it/ - Scientific Triathlon. (n.d.). Physiology, Training, and INSCYD with Sebastian Weber (part 2). Retrieved February 22, 2026, from
https://scientifictriathlon.com/tts238/ - PMC. (2025). Recent advances in training intensity distribution theory for cyclic endurance sports.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC12568352/

