• イタリアの老舗ブランド「LAS(ラス)」の歴史と、大量生産を拒む職人気質の理由
• 主要モデル(Virtus・Cobalto・Enigma)のスペック比較と、あなたに最適な一台の選び方
• 「ヨーロッパフィットは幅が狭い?」という噂の真実と、日本人の頭型に合わせるコツ
• JCF公認シールの有無と安全規格(CE EN1078・WG11)についての正しい知識
• KASKやMETなど競合ブランドとの比較で見えるLASのコストパフォーマンスの高さ
はじめに
週末のロングライドに向けた準備中、ふと鏡に映る自分を見て、ため息をついたことはありませんか?
「……キノコだ」
頭の上にちょこんと乗った、分厚い発泡スチロールの塊。どんなに高級なロードバイクに跨っても、そのシルエットが全てを台無しにしているような絶望感を覚える方は少なくないでしょう。
「KASKやGIROを選べば間違いない」――それは誰もが知る正解です。しかし、信号待ちで隣のライダーと全く同じブランドのロゴが並んだ瞬間、微かな気まずさを感じるのもまた事実ではないでしょうか。
「人と同じは嫌だ。かといって、得体の知れないブランドで頭を守れるのか?」
そんなジレンマに陥るあなたに、自転車業界の裏も表も見てきた私が、一つの「解」を提示しましょう。それは、イタリア・ベルガモの地で半世紀以上、頑固なまでにモノづくりを続ける「LAS(ラス)」です。
これほど「過小評価」され、かつ「玄人好み」なブランドは稀かもしれません。今回は、その美学と、スペック表の数字だけでは見えない「物理的な真実」を徹底解剖します。
『孤高の美学』と『イタリアの血脈』― なぜLASは大量生産を拒むのか

暗黒時代を越えて買い戻された「職人の魂(ブランド)」
LASの歴史は1974年に始まります。
創業の地は北イタリア、ベルガモ県。金属加工や繊維産業が集積する、まさに「モノづくりの聖地」と呼ばれる場所です。しかし、その歩みは決して平坦ではありませんでした。
2000年代、ブランドは一時大手資本(Briko)の傘下に入ることになります。
「大手に入れば安泰だ」と多くの人は思うでしょう。
けれども、職人にとってそれは「魂の死」を意味することがあるのです。効率化の名の下に独自性が削ぎ落とされ、どこにでもある製品に成り下がっていく……。
LASもまた、埋没しかけていました。
だが、彼らは諦めませんでした。
2016年、かつてLASで働いていたGregorio Togni氏らが、なんと自分たちの手でブランドを買い戻したのです。
「自分たちが作りたいものは、自分たちの手でしか作れない」。
そう言わんばかりの原点回帰でした。
現在もイタリア国内(プラダルンガ)での生産にこだわり続けるその姿勢は、単なる工業製品メーカーというより、頑固な工房(アトリエ)のようです。
「カースト上位」へのアンチテーゼとしての選択
イベント会場を見渡せば、右も左もKASK、あるいはOGK Kabuto。それは「失敗しない選択」ですが、同時に「個性の埋没」でもあります。
あなたがLASを選ぶとき、それは単にヘルメットを買う行為ではありません。「私は流行に流されず、自分の審美眼でモノを選ぶ人間だ」という、無言の意思表示(シグナル)なのです。
では、その「個性」にはどれほどのコストがかかるのでしょうか?
市場調査主要イタリアンブランドのフラッグシップモデルの実勢価格を比較してみました。
KASK Protone Icon(約34,000円〜41,000円)
MET Trenta 3K(約46,000円〜)
LAS Virtus(約35,000円前後)
驚くべきことに、LASは「イタリア製」「ハンドメイド」「希少性」を兼ね備えながら、トップブランドと同等か、やや抑えられた価格帯に位置しています。
広告費を削ぎ落とし、製品そのものにコストを投じる職人気質が、この数字に表れているのです。
『風を切り裂く快感』と『都市の生存戦略』― 目的別・3つの最適解

【Virtus(ヴァータス)】真夏の峠で「汗の滝」から解放される快感
夏のヒルクライム、滴り落ちる汗がサングラスの内側を伝う不快感……。
あれこそがライダーの集中力を削ぐ最大の敵かもしれません。フラッグシップモデル「Virtus」が目指したのは、そのストレスからの解放です。
特筆すべきは22個のベンチレーションだけではありません。
「Nano 3D」アジャスターとマグネットバックルの組み合わせが光ります。
冬場、厚手のグローブをしたまま、かじかんだ指でバックルをハメる苦行からサヨナラできる――この「マグネットが吸い付くカチャッという音」の快感は、一度味わうと戻れないでしょう。
一部で「VirtusはWG11(回転衝撃規格)対応」と謳われることがありますが、公式サイト上での明記は確認できませんでした(後述のCobaltoは明記あり)。
しかし、独自のLDHR技術による堅牢性は、プロレースの現場で証明され続けています。

画像:ワイズロードオンラインより
【Cobalto(コバルト)】「キノコ頭の呪縛」を解くミニマリズムの極致
「軽さは欲しい。でも、頭が大きく見えるのは絶対に嫌だ」。
そんなわがままな願いを叶えるのが、ミドルグレードの「Cobalto」です。
Virtus(255g) vs Cobalto(215g ※S/M公称値)
なんと、上位モデルよりも約40gも軽んですね。
「ミニマイズ・ボリューム」をコンセプトに設計されたシェルは、余分な膨らみを極限まで削ぎ落としています。
さらに、このモデルには明確に「WG11 ROTATIONAL IMPACT TEST PASS」の表記があります。
軽さと安全性、そしてスタイリッシュな見た目。週末ライダーにとっての「最適解」は、実はここにあるのかもしれません。

画像:シクロワイアードより
【Enigma(エニグマ)】ロード用ではない、「都市(ジャングル)」を生き抜くための盾
多くのガイドで「Enigma」もロードバイク用として一括りにされがちですが、厳密にはこれは「City/MTB」カテゴリ、つまりコミューター(通勤・街乗り)向けのモデルです。
「なんだ、ロード用じゃないのか」と思われる方に誤解されないよう、もう少し説明をしていきましょう。
通勤でロードバイクを使うあなたにとって、最大の脅威は何ですか?
タイムではありません。「背後から迫る自動車」ではないでしょうか。
Enigmaの後頭部には4つのLEDライトが埋め込まれています。
ヘルメットと一体化した光は、あなたの安全性を大幅に引き上げます。
重量も250g(S/M)と、街乗り用としては驚異的に軽量に作られています。
「戦う場所」がレース会場ではなく「公道」であるなら、これこそが最強の装備となるはずです。

画像:ワイズロードオンラインより
『ユーロフィットの壁』と『日本人の頭蓋骨』― サイズ選びの物理的真実

絶壁・ハチ張りの民が直面する「側頭部の激痛」
「LASはイタリアンブランドだから、どうせヘルメットの幅が狭いんだろう?」
その疑念は、半分正解で半分間違いです。確かに基本設計は欧米型の「楕円(Oval)」寄りでしょう。
典型的な「ハチ張り(円形)」の日本人が無理に被れば、30分後には側頭部が万力で締め上げられるような激痛に襲われる可能性があります。
しかし、LASの「Nano 3D」システムは、後頭部バスケットの調整幅が広く、意外なほど多くの日本人の頭にフィットします。疑いの目で見ている方。試しに、下記のように装着してみてください。
1. こめかみの一番出っ張っている部分の周囲長を測る。
2. その数値に「+2cm」したゆとりを見る。
3. 可能な限り、ワイズロードなどの実店舗で試着し、「15分間」被り続ける。
「入る」と「痛くない」は別物です。痛みがなければ、その流線型フォルムはあなたの頭を小さく、スマートに見せてくれるでしょう。
並行輸入の甘い罠と「JCFシール」の代償
海外通販サイトで見かける「2万円台」のLASヘルメット。心が揺らぐその価格差ですが、冷静に計算してみましょう。
安さ(約5,000円〜10,000円) vs リスク(国内イベント参加不可 + 輸送中の破損リスク + サイズ交換不可)
国内正規代理店(株式会社エヌビーエス)経由の個体には「JCF公認シール」が貼付されています。
これがないと、国内の主要なレースやイベント(ヒルクライム大会など)の車検に通りません。
「数千円をケチったせいで、数万円の参加費と旅費、そしてトレーニングの日々が水の泡になる」。
数千円の投資で、安全と安心が手に入るのです。
『MIPS神話』への挑戦状 ― 独自技術「LDHR」という回答

プラスチックの板を入れるか、ボディそのものを強くするか
「MIPSが入っていないヘルメットは時代遅れだ」。
そう考える人もいます。
確かにMIPSは脳への回転衝撃を減らす素晴らしい技術です。
しかし、デメリットもあります。通気孔が塞がれたり、髪の毛が引っかかったり、重量が増したりすることだってあります。
LASは安易にMIPSを採用しませんでした。
代わりに選んだのが「LDHR (Lateral Deformation High Resistance)」という独自技術です。
これは、ヘルメットのボディ(EPS)そのものの骨格を強化し、横方向からの圧縮に耐える設計方法です。
「衝撃を受け流す」のではなく、「潰れずに守り切る」。発想の転換と言えるかもしれません。
Cobaltoに見られる「WG11」への準拠も、MIPSというパーツに頼らずとも、設計次第で安全性は担保できるというLASの技術者としてのプライドが、ユーザーに対する回答なのです。
比較の果てに見える『賢者の選択』 ― KASK vs MET vs LAS

ブランドが発する「社会的シグナル」の比較
機能や価格ではなく、「それを身につけることでどのようなメリットを享受できるか」という視点で、ライバルたちと比較してみましょう。
「間違いのない王道」。クラスの成績優秀者と言えるでしょう。
誰もがその性能を認めますが、没個性化のリスクがあるということも特徴のひとつです。
「先進的なアスリート」としてのポテンシャルに秘めています。
ポガチャル選手のイメージが強く、速さを追求するストイックな印象が付きまとうこともあるかもしれません。
【12/25は「13倍!」Wエントリーで更にポイントUP】MET TRENTA Mips HELMET メット トレンタ ミップス ヘルメット 【JCF公認】
「成熟した愛好家」というべきでしょうか?
流行に左右されず、モノの本質を見極める審美眼を持つ大人が身に着けるヘルメットといった方が正確かもしれません。
「それ、どこの?」と聞かれることを密かな楽しみにできる人にぜひ使用してほしい逸品です。
いかがでしょうか?いずれも個性にあふれた逸品ぞろいです。
もしあなたが、スペック表の0.1gやコンマ1秒を削るプロレーサーなら、最新のエアロヘルメットを選ぶべきかもしれません。
しかし、あなたが週末のライドを愛し、自分のスタイルを大切にする「大人のロードバイク・ライダー」なら、LASが持つ「物語」と「物理的な軽さ」、そして「被らない希少性」は、あなたの所有欲を最も満たしてくれる選択肢になるはずです。
Q&A
- LASヘルメットのEnigmaについているテールライトの電池交換は簡単ですか?
一般的なボタン電池を使用しており交換可能です。ただし、モデルにより手順が異なる場合があるため、付属の説明書を確認しましょう。公式スペック表に電池型番の明記がないため、購入時に実機確認をおすすめします。
- JCF公認シールがない並行輸入品でも日本のレースに出られますか?
JCF公認レースではシールが必須です。ホビーレースや街乗りならCE規格があれば問題ありませんが、競技志向なら国内正規代理店(株式会社エヌビーエス)経由での購入が安心でしょう。
- LASヘルメットはアウトレットやセールで安く買えますか?
ワイズロードなどの専門店やAmazonでセールになることがあります。ただし、ヘルメットには寿命(一般的に3〜5年)があるため、製造年数やサイズ在庫に注意が必要です。
まとめ
ロードバイクのヘルメット選びは、単なる防具選びではありません。それは、あなたがロードバイクという趣味とどう向き合っているかを表す「顔」を選ぶ行為です。
イタリア・ベルガモの職人たちが、大量生産の波に抗って守り抜いたLASというブランド。
2016年の買い戻しという劇的なストーリーを経て、彼らは今もなお「自分たちが作りたいものを、自分たちの手で」という信念を貫いています。
「キノコ頭」に怯える日々はもう終わりです。Virtusの風抜けの良さ、Cobaltoの軽やかな装着感、そしてEnigmaの頼もしい光。
どのモデルにも、LASならではの美学と技術が詰まっています。
次の週末、あなたが被るのは「みんなと同じヘルメット」でしょうか? それとも、「理由があって選んだ、あなただけの相棒」でしょうか?
賢明なあなたなら、答えはもう出ているはずです。
参考文献・引用元リスト
Capo Velo. (2025). LAS Virtus Helmet Reviewed. Retrieved December 17, 2025, from https://capovelo.com/las-virtus-helmet-reviewed/
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KASK. (n.d.). WG11. KASK Safety. Retrieved December 17, 2025, from
https://www.kask-safety.com/en/wg11.htm
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LAS Helmets. (n.d.-c). VIRTUS. Retrieved December 17, 2025, from https://www.lashelmets.com/en/product/virtus-en/
ProCycleGear. (n.d.). LAS COBALTO White – Helmet. Retrieved December 17, 2025, from https://procyclegear.com/las-cobalto-white-helmet/
Velo. (n.d.). Kask puts MIPS on notice with new WG11 rotational impact test. Retrieved December 17, 2025, from
https://velo.outsideonline.com/road/road-racing/kask-wg11-rotational-energy-impact-test-and-mips/
Y’s Road. (n.d.). LAS (ラス) スポーツヘルメット ENIGMA. Retrieved December 17, 2025, from
https://online.ysroad.co.jp/shop/g/g21907982/
※価格・スペック情報について:本記事の価格およびスペック情報は2025年12月時点のものです。最新の在庫状況や価格については、各販売店の公式サイトまたは店頭でご確認ください。モデル年式や仕様は予告なく変更される場合があります。
※安全に関する注意:ロードバイクは車両です。道路交通法を遵守し、ヘルメット着用、適切な装備での走行を心がけてください。不安な場合は、必ずプロショップに相談してください。


