- スプリントで「パワーが逃げる」根本原因と、今日から使える矯正法
- プロも実践する「対側連動」の習得方法
- 後輪スキップやふらつきを防ぐ重心コントロール術
- 下ハンドル vs ブラケット論争の最適解
- 週2回で変わる体幹・神経筋トレーニングドリル集
はじめに
ゴールラインまで、あと200メートル。
心臓がバクバクと限界を訴えている。太腿は乳酸で焼けつき、肺の奥からは血の味がこみ上げてくる。
それでも、ライバルの背中を追い越すため、サドルから腰を浮かせた。
渾身のスプリント。脚に残った最後の力を、すべてペダルに叩き込む——。
ところが、どうしたことか。
ペダルを踏み込むたびに、バイクがグニャグニャと左右に揺れる。
力が路面に伝わっている気がしない。
隣のライダーはスーッと加速していくのに、自分だけがもがいている感覚。
ゴール後、パワーメーターを確認すると、最大出力は決して低くないのに、なぜか「遅かった」。
そんな経験、あなたにもないでしょうか。
実のところ、スプリントの勝敗を分けるのは「どれだけのパワーを出せるか」だけではないのです。むしろ「そのパワーをいかにロスなく路面に伝え、空気抵抗を最小化するか」という効率性の問題に帰結します。
時速60kmを超える極限状態において、不適切な姿勢や動作パターンは、パワーの伝達ロスを招くだけではありません。
トラクション抜けや落車のリスクまで高めてしまう。
私は30年以上、さまざまなレベルのサイクリストを指導してきました。アマチュアからプロまで、数えきれないほどのスプリントを見てきた。そこでわかったことがあります。速い人と遅い人の差は、必ずしも脚力だけではない。「姿勢」と「動作パターン」が、決定的な違いを生むのだと。
本記事では、最新のバイオメカニクス研究とプロコーチの指導理論に基づき、あなたのスプリント姿勢を根本から矯正する方法をお伝えしましょう。
「パワーを出す筋力」ではなく「パワーを逃さない技術」を身につけて、次こそ勝利を掴んでください。
絶望のパワーロス——なぜあなたのスプリントは「遅い」のか

スプリントが遅い原因を「脚力不足」と決めつけていないでしょうか。
確かに、最大パワーが高ければ有利なのは事実です。しかし、私が現場で見てきた限り、これは確かなことです。
同じパワーを出していても、速い人と遅い人がいる。その差は「姿勢」と「動作パターン」にある。
上半身が「支え」を失う——脚力だけでは前に進めない理由
多くのライダーが「スプリントは脚で踏むもの」と誤解しています。もちろん、ペダルを回す主役は脚にほかなりません。しかし、その巨大な力を受け止める「土台」を作るのは上半身なのです。
バイオメカニクスの研究によると、上半身の筋活動が不十分な場合、ペダルへの入力に対する反作用を抑え込めず、力が逃げてしまうことが示されています。
考えてみてください。1000ワットの出力でペダルを踏み込むと、身体には同じだけの反作用が生じます。
もし上半身がフニャフニャだったら、どうなるか?
反作用は身体を押し戻す方向に働き、力が分散してしまうのです。
プロスプリンターの映像を見ると、激しいペダリング中でも頭部の位置が驚くほど安定していることに気づくでしょう。あれは偶然ではありません。上半身の剛性を意図的に高め、脚の力を無駄なく路面に伝えている証拠なのです。
重心が「前のめり」になる——後輪トラクション抜けの物理学
スプリントの踏み出しで、後輪が地面から跳ね上がり「ガガガッ」と空転した経験はないでしょうか。この「ホイールスキップ」現象は、重心位置の不適切な管理が原因です。
物理学的に説明しましょう。タイヤが路面に力を伝えるためには、摩擦力が必要です。この摩擦力は以下の式で表されます。
摩擦力 F = 垂直抗力 N × 摩擦係数 μ
つまり、タイヤと路面の間の摩擦係数が一定であれば、摩擦力の大きさはタイヤにかかる垂直方向の荷重(垂直抗力)に比例するわけです。
ダンシングで身体が前方へ移動しすぎると、重心がBB(ボトムブラケット)軸より大幅に前に出てしまいます。すると後輪荷重が不足し、タイヤが路面を捉えきれなくなる。結果としてホイールスピンやスキップが発生するのです。
バイクが「蛇行」する——「ヌードル・スプリント」という最悪のパターン
バイクや身体がクネクネと力なく動き、パワーが逃げている状態を、業界では「ヌードル・スプリント」と呼びます。まるで茹でた麺のように、しなって力が入らない様子からついた名前です。
この現象の原因は、上半身の剛性不足に尽きます。ハンドルバーへの入力が弱く、腕が伸びきっているために、脚の反作用を受け止めきれず、体幹がねじれて力が逃げてしまう。
視覚的にもすぐわかります。頭部が左右に激しく揺れるスプリントをしている人は、体幹の力が逃げている証拠。前方の視界もブレるため、集団スプリントでは非常に危険でもあるのです。
研究と実践から見えてきた「速いスプリント」の要素—上半身と下半身の対側連動性

ここからは、なぜ姿勢が重要なのかを科学的に掘り下げます。理屈を理解することが、正しい動作を身につける最短ルートです。
「対角線で踏む」という革命——コントララテラル・コーディネーション
スプリントにおいて最も重要な概念が「対側連動性(Contralateral Coordination)」です。
具体的に説明しましょう。
左脚でペダルを踏み込む瞬間、ライダーは右腕でハンドルを手前に引く動作を行います。このとき、右手の引き動作によって生じる力は、右肩から背中(広背筋)、体幹を斜めに横断し、左腰へと伝達されます。
この対角線の緊張が強固な支点となり、左脚の爆発的な伸展力をサポートするのです。
逆に、もし左脚で踏むときに同側の左腕で引いてしまうと(イプシラテラル・プル)、自転車は左側に過度に傾いてしまいます。
重心が左外側へと崩れ、ペダルにかかる垂直方向のベクトルが減少し、横方向への無駄な動きとなってパワーが散逸してしまうのです。
この対側連動は、実は人間の基本的な動作パターンでもあります。
歩くとき、右足を前に出すと左腕が自然に前に振られます。走るときも同様です。
スプリントにおける対側連動は、この人体の基本構造を活かした動きなのです。
ペダリング位相ごとの筋活動——「引き足」神話を検証
長年、サイクリング界では「引き足」の重要性が説かれてきました。しかし、近年のバイオメカニクス研究は、この定説を修正しつつあります。
最大出力が求められるスプリントにおいて、筋肉が生み出すパワーの大部分は、股関節と膝の伸展によるダウンストローク(12時から5時の位置)で発生します。では、引き上げ局面にある脚の役割は何か。
それは「反対側の脚が踏み込む邪魔をしない」ことにあります。
素早く脚を引き上げ、ペダルにかかる脚の自重をゼロにすること(アンウェイティング)が求められるのです。「引き足で積極的にパワーを出す」というよりも、「踏み足の邪魔をしない」という発想の転換が必要でしょう。
「Circle of Power」——上半身を剛体化するコーチング概念
プロコーチのピート・モリス氏らが提唱する「Circle of Power」は、上半身を剛性を生み出す構造体として機能させるコーチング概念です。
学術論文で実証された理論というよりも、長年の指導経験から体系化された実践的な方法論と捉えるのが適切でしょう。
まず、手首の固定。手首をわずかに内側に巻き込み(コック・リスト)、ハンドルバーを強固にグリップします。
次に、肘の張り出しと内向トルク。肘を外へ張り出しながら、ハンドルバーを左右から中心に向かって「折り曲げる」ようなイメージでアイソメトリック(等尺性)な力を加えます。
これにより、大胸筋と広背筋が同時に収縮し、肩関節がロックされます。
最後に、この状態を維持したまま体幹を安定させる。
この上半身の剛構造が、脚が生み出す高出力に対する安定化に大きく寄与します。
経験上、この概念を習得したライダーは、スプリント時のバイクの挙動が劇的に安定することが多いのです。
「重心」を制する者がスプリントを制す——安定性とトラクションの物理学

スプリント時における不安定な挙動やパワーロスの多くは、重心位置の不適切な管理に起因します。
後輪スキップを防ぐ「サドル・ブラッシング」テクニック
後輪スキップを回避する実践的な指標として、「サドル・ブラッシング」があります。これは、バイクを左右に振った際、サドルの先端が太腿の裏側にかすかに触れる位置を維持することです。
この感覚を保つことで、重心がBBの直上に留まっており、後輪への荷重が抜けていないことを確認できます。
サドルから完全に離れすぎると、重心は前方に移動しがちです。かといって、サドルにどっかり座っていてはダンシングになりません。
「触れるか触れないか」というギリギリの位置。この微妙なバランス感覚が、スプリントの成否を分けるのです。
バイクの「振り方」には正解がある——ヘッドチューブ軸回旋の原則
スプリントでは、バイクを左右に振ることで、ペダルを身体の重心の真下に位置させ、体重を利用して踏み込むことが可能になります。しかし、この「振り」が不適切であると、蛇行や減速の原因となってしまいます。
効率的なスプリントでは、バイクはヘッドチューブを中心とした振り子運動を行うべきです。ライダーの頭部や脊柱の中心線は進行方向に対して比較的静止し、その下でバイクが左右にリズミカルに動く状態が理想です。
頭部が左右に激しく揺れるスプリントは、体幹の力が逃げている証拠であり、視界がブレるため危険でもあります。自分のスプリントを後ろから撮影してもらうと、この点がよくわかるでしょう。
「前後バランス」の最適解——動的な重心移動
スプリントの加速初期に前輪が浮いてしまう現象も、重心位置の問題です。これは後輪スキップとは逆に、重心が後方に残りすぎている場合に発生します。
とはいえ、前輪浮きを恐れて重心を前に出しすぎると、今度は後輪のトラクションが失われます。このジレンマを解決するのが、「動的な重心移動」という考え方です。
スプリントの踏み出し瞬間は、やや後輪寄りに重心を置いてトラクションを確保します。
速度が乗ってきたら、徐々に重心を前方へ移動させ、空気抵抗を減らす姿勢に移行する。
この「動的」なバランス調整が、速いスプリンターに共通する特徴なのです。
空力と出力のジレンマ——究極のトレードオフを解決する姿勢最適化

速度域が高くなればなるほど、空気抵抗の影響は支配的となります。
研究によると、時速60km程度の高速域では、体格やポジションにもよりますが、消費パワーの大半が空気抵抗に費やされるとされています。
スプリント姿勢の最適化とは、バイオメカニクス的な出力効率と、エアロダイナミクス的な抵抗削減の間の「妥協点」を見つける作業にほかならないのです。
上体の前傾角度——「低ければ良い」は大間違い
一般的に、上体を低くすればするほど前面投影面積が減少し、空気抵抗は改善します。しかし、上体を低くしすぎると、大腿部とお腹の間の角度(ヒップアングル)が過度に狭くなります。
ヒップアングルが閉塞すると、大臀筋やハムストリングスの伸展可動域が制限され、最大パワーの発揮が阻害されてしまうのです。また、呼吸のための横隔膜の動きも制限されます。
多くの選手にとって推奨されるのは、肘を曲げて頭を下げつつも、骨盤の角度を保ち、ペダルへの入力を優先するスタイルでしょう。「とにかく低く」ではなく、「パワーを出せる範囲で低く」という発想が重要です。
下ハンドル vs ブラケット——論争に終止符を打つ
風洞実験では、ブラケットを握る「エアロフード」ポジションが空気抵抗において優位とされています。
しかし、スプリント、特に集団内でのゴールスプリントにおいては、下ハンドルを使用することが多くのレース状況において強く推奨されます。
その理由は明確です。
グリップの安全性
下ハンドルを深く握ることで、激しい振動や接触があっても手がハンドルから外れるリスクが最小限になります。
重心の安定化
手の位置が下がることで身体全体の重心も下がり、バイクの挙動が安定します。
レバレッジ
下ハンドルを握ることで、バイクを振る際、てこの腕が長くなり、より少ない力でバイクをコントロールできます。
もちろん、単独のタイムトライアル的なスプリント(例:山岳ゴールでの独走)であれば、ブラケットポジションの方が有利な場合もあるでしょう。
状況に応じた使い分けが求められます。
「上目遣い」の技術——頭を下げながら前を見る方法
頭を下げることは、エアロダイナミクスにおいて効果的なテクニックです。
しかし、スプリント中に頭を下げすぎると、前方の視界が遮られ、追突事故のリスクが高まります。
安全とエアロを両立させる解は、「上目遣い」です。
頭の位置自体は低く保ちつつ、顎を引きすぎないようにし、視線だけを常に前方に向けます。
サングラスのフレームの上縁ギリギリから前方を見る感覚、と言えばわかりやすいかもしれません。
恐怖心(前が見えない)と欲望(速く走りたい)の葛藤を乗り越え、この視線の技術を身につけることが、安全かつ速いスプリントの鍵となります。
あなたのフォームを「診断」する——よくある悪い癖とその原因

自身のスプリントフォームを改善するためには、まず「何が悪いのか」を客観的に診断する必要があります。
後輪スキップの診断と対策
スプリントの踏み出しで後輪が地面から浮き、空転する現象の原因は複数あります。
最も多いのは、重心がBB軸を超えて前に行き過ぎ、後輪荷重が不足している状態です。
ダンシングの際にハンドルに体重をかけすぎていないか、確認してみてください。
ペダリングが「円」ではなく「点」になっており、特定の角度で急激なトルク変動が発生している場合に起こります。
踏み込みの瞬間だけ力を入れるのではなく、滑らかにトルクをかける意識が必要です。
踏み込む瞬間に身体を極端にひねることで、対側の荷重が抜け、ホイールが浮くこともあります。
対側連動を正しく行えば、この問題は解消するはずです。
サドルバウンシングの診断と対策
高ケイデンス(110rpm以上)で回そうとした際に、お尻がサドル上でポンポンと跳ねてしまう現象です。
主に加速初期やシッティングスプリントで見られます。
最も多い原因は、筋肉の収縮と弛緩のサイクルが回転数に追いついていない状態です。
筋肉が「収縮→弛緩」のリズムに対応できず、力が抜けきらないうちに次の収縮が始まってしまう。
軽すぎるギアで回転数だけが上がり、ペダルからの反力が得られない状態。
ある程度の抵抗がないと、ペダリングは安定しません。
対策としては、後述する「高ケイデンス・スピンアップ」ドリルで神経筋の適応を促すこと、そして適切なギア選択を意識することが挙げられます。
肘のロックと肩のすくみ——上半身硬直の弊害
肘がピンと伸びきり、肩がすくんでいる状態は、初心者に多く見られるエラーです。
この姿勢では、上半身のサスペンション機能が失われ、路面の衝撃を吸収できません。
結果として、衝撃がダイレクトに腰や首に伝わり、疲労が蓄積しやすくなります。また、ハンドリングも不安定になり、集団内での接触時にバランスを崩しやすくなります。
対策は「肘を曲げる」意識を持つこと。「肘を外に張り出す」という意識も有効です。腕に適度な「遊び」を持たせることで、衝撃吸収とコントロール性の両方が向上します。
今日から始める「スプリント姿勢矯正ドリル」——週2回で劇的に変わる実践メソッド

理論的理解に基づき、以下のドリルを段階的に実施することで、神経筋回路を書き換え、効率的なスプリント姿勢を構築します。
これらのドリルは、単に筋力を鍛えるものではなく、「動きの質」を高めるためのものです。
【基礎ドリル】Circle of Power の習得
このドリルは、スプリント時の上半身の「形」を作るためのものです。
静的フェーズ(ローラー台で実施)
- 下ハンドルを持ち、手首を内側に巻き込みます(コック・リスト)
- 肘を外に張り出しながら、ハンドルバーを内側に「曲げる」ように力を入れます
- この状態で上半身をロックし、サドルから腰を浮かせてもその剛性を維持できるか確認
動的フェーズ(実走で実施)
- 実走で中強度のペダリングを行いながら、この「Circle of Power」を作ります
- 上半身の筋肉(大胸筋、広背筋)がアクティブになっている感覚を掴んでください
最初は意識的に行う必要がありますが、繰り返すことで無意識にできるようになります。
【重心ドリル】サドル・ブラッシング
実走で行う、重心位置の矯正ドリルです。目的は、後輪荷重を維持しながらダンシングする感覚を養うことです。
- 中程度の速度でダンシングを開始
- 意識的に重心を後ろに残し、バイクを左右に振った際、サドルの先端が太腿の裏側や内側にかすかに触れる位置を探す
- この「触れるか触れないか」の位置をキープしたまま加速
サドルにどっかり座るのではなく、あくまで位置確認のガイドとして利用することが重要です。
このドリルを繰り返すことで、適切な重心位置が身体に染み込んでいきます。
【トルクドリル】高トルク・低ケイデンス(Stomps)
スプリントの初期加速を高め、正しい踏み込みのベクトルを身体に覚えさせるドリルです。
設定
- ギア:重め(53×12-14など)
- 場所:平坦または緩斜面
- 速度:ほぼ停止状態(時速5〜10km)からスタート
実施方法
- シッティングまたはダンシングでスタート
- 全力でペダルを踏み込み、10〜15秒間加速
- ケイデンスは低い状態(40〜50rpm)から始まり、90rpmに達したら終了
ポイント
- 一踏みごとに対側の腕でハンドルを引く動作を意識する
- 上半身がブレないように完全に固定する
このドリルは筋力だけでなく、多くの筋繊維を動員し、体幹とハンドルの対側連動性を強化する効果があります。
【スピードドリル】高ケイデンス・スピンアップ
高回転域でも姿勢を崩さず、スムーズなペダリングを維持するためのドリルです。目的は、サドルでのバウンシングを防ぎ、筋肉の弛緩速度(リラックス)を向上させることです。
実施方法
- 軽いギア(39×17-19など)を選択
- 通常のケイデンス(90rpm)からスタート
- ギアを変えずに、回転数だけを上げていく
- 110、120、130rpm…と上げ、お尻が跳ね始めたらその手前でキープ
- その最大安定ケイデンスを10〜20秒維持
ポイント
- 「踏む」のではなく「回す」意識を持つ
- 上半身はリラックスさせ、肩の力を抜く
このドリルを継続すると、神経筋の適応が進み、高ケイデンスでも安定したペダリングが可能になります。
【統合ドリル】スタンディング・スタート
実際のレースシチュエーションに近い形式で、低速からの爆発的加速を練習するドリルです。
トラック競技由来で、最も負荷が高いドリルになります。
実施方法
- 停止状態(クリップインしてフェンスやパートナーに支えてもらうか、極低速スタンディング)から、重いギアでスタート
- 「Go」の合図とともに、最初の一踏み目から最大トルクをかける
- ハンドルを引き、バイクを振って加速
- 20秒間全力で踏み続ける
注意点
- 頭の位置がぶれないように前方を凝視する
- 神経系への負担が大きいため、必ず十分なウォーミングアップの後に行う
- フレッシュな状態(脚が重くない日)に実施する
このドリルは、これまでの全てのドリルで培った要素を統合する総仕上げです。
機材で「楽になる」——スプリント向けセッティングの最適解

肉体的なトレーニングと同様に、機材のセッティングもスプリントパフォーマンスに直結します。
ハンドル幅のトレンド——ナローハンドル化の功罪
近年は、ハンドル幅を標準的な400mm〜420mmから、360mm〜380mmへと狭くするトレンドが加速しています。
ナローハンドルのメリット
- 前面投影面積が小さくなり、空気抵抗が減少
- 集団内でのすり抜けに有利
ナローハンドルのデメリット
- スプリント時の「レバレッジ」において不利
- ハンドル幅が狭くなると、支点から力点までの距離が短くなるため、同じトルクでバイクを振るためには、より大きな筋力が必要となる
- ステアリングが敏感になりすぎるため、高出力時にバイクの挙動を制御しきれず、ふらつきの原因となることもある
推奨としては、自身の肩幅を基準とし、そこから最大でも1サイズ(20mm)ダウン程度に留めるのが安全な選択でしょう。
エアロ効果を追求するあまり、スプリントの安定性を犠牲にしては本末転倒です。
ステム長とハンドリング特性
ステムの長さは、前輪への荷重配分とステアリングの反応速度を決定する重要な要素です。
短いステム(80〜90mm)の特性
- ハンドリングがクイックになり、低速域やテクニカルなコーナーでは扱いやすい
- 高速スプリント時には直進安定性が損なわれやすく、ハンドルが過敏に反応しすぎるため、「ヌードル」状態になりやすい
長いステム(110〜130mm)の特性
- ステアリング動作が穏やかになり、時速60km以上の高速域での直進安定性が増す
- プロスプリンターの多くは、安定性を求めて長めのステムを使用する傾向がある
ただし、ステム長の変更はライディングポジション全体に影響するため、フィッターと相談しながら最適な長さを見つけることをお勧めします。
よくある質問Q&A

- スプリント練習はどこでやれば安全ですか?
理想的なのは、交通量が少なく、見通しの良い平坦な直線道路です。サイクリングロードや河川敷のコース、工業団地(休日)などが候補になります。
安全のため、必ず周囲を確認し、後方から車両が来ていないことを確かめてからスプリントを開始してください。また、ローラー台でのドリルも、安全かつ効果的なオプションです。
特に「Circle of Power」や「高ケイデンス・スピンアップ」はローラー台での練習に適しています。
- パワーメーターはスプリント練習に必要ですか?
必須ではありませんが、あれば有用です。パワーメーターがあると、最大出力の推移を数値で確認できるため、トレーニングの効果を客観的に評価できます。
ただし、スプリント姿勢の矯正においては、パワー値よりも「動きの質」を重視することが重要です。
数値に囚われすぎると、フォームが崩れても気づかないことがあります。
- 体幹トレーニングは自宅でできますか?
もちろん可能です。以下のメニューを週2回行うだけでも、スプリント時の体幹安定性は大幅に向上します。
- プランク:30〜60秒×3セット

- デッドバグ:左右交互に20回×3セット

特にデッドバグは、対側連動のパターンを強化する効果もあるため、スプリント改善に直結します。
- スプリントすると腕がパンパンに張るのですが、どうすれば良いですか?
腕が張る原因は、ハンドルを「握りしめすぎ」ている可能性が高いです。
グリップ自体は比較的軽く、前腕ではなく広背筋や大胸筋で力を受け止める意識を持ってみてください。「Circle of Power」のドリルを繰り返すことで、この感覚が掴めるようになります。
- スプリントが怖いのですが、克服方法はありますか?
スプリントへの恐怖心は自然なことであり、むしろ適切なリスク認識の表れです。
克服のためには、まず低速・低強度から始めることをお勧めします。時速30km程度で軽くダンシングし、徐々にスピードと強度を上げていきます。フォームが安定すれば、バイクの挙動が予測可能になり、恐怖心は自然と薄れていきます。
焦らず、段階的にステップアップすることが大切です。
まとめ:スプリントは「技術」で変わる

ロードバイクのスプリントにおける「最適な姿勢」とは、バイオメカニクスの法則と、ライダー個人の身体的特徴との妥協点において成立する動的なバランスです。
本記事の核心的結論は以下の通りです。
第一に、安定性がパワーの源泉であること
どんなに高い出力を出せる脚があっても、それを支える上半身と体幹が不安定であれば、力は路面に伝わりません。「Circle of Power」による上半身の剛性確保と、対側連動による力の同期が、効率的なスプリントの基礎となります。
第二に、安全性こそが速さの基盤であること
頭を下げすぎる姿勢や、制御不能なエアロポジションは、視界不良やコントロール喪失を招きます。下ハンドルを確実に握り、前方を見据えた「上目遣い」の姿勢こそが、最もアグレッシブかつ安全なスプリントフォームなのです。
第三に、ドリルによる動作の自動化が不可欠であること
スプリントという極限状態では、意識的な修正は不可能です。低速でのトルクドリルや高回転ドリルを反復し、正しい動作パターンを神経筋レベルで自動化させて初めて、実戦でのフォーム改善が実現します。
なお、本記事で紹介した内容は一般的な指針であり、最適解には個人差があります。痛みや違和感が続く場合は、専門のフィッターや医療従事者に相談することをお勧めします。
参考文献・出典
※本記事は、以下の資料・データに基づき作成いたしました。
※安全に関する注意:ロードバイクは車両です。道路交通法を遵守し、ヘルメット着用、適切な装備での走行を心がけてください。不安な場合は、必ずプロショップに相談してください。
- Bini, R., Hume, P. A., & Croft, J. L. (2011). Effects of bicycle saddle height on knee injury risk and cycling performance. Sports Medicine, 41(6), 463-476.
- Bourne, M. N., et al. (2021). Maximal muscular power: Lessons from sprint cycling. PMC – PubMed Central.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8282832/ - Fast Talk Labs. (n.d.). How to pedal a bike: Part two – Contralateral coordination. https://www.fasttalklabs.com/cycling-in-alignment/how-to-pedal-a-bike-part-two/
- Liv Cycling. (n.d.). How to sprint on a road bike.
https://www.liv-cycling.com/us/how-to-sprint - TrainerRoad. (2018). Sprinting tips from a pro – Team Clif Bar Racing’s Pete Morris. https://www.trainerroad.com/forum/t/sprinting-tips-from-a-pro-team-clif-bar-racings-pete-morris/8163
- TrainingPeaks. (n.d.). What’s the big deal with aerodynamics? https://www.trainingpeaks.com/blog/whats-the-big-deal-with-aerodynamics/
- Velo. (2015). Technical FAQ: Weight distribution.
https://velo.outsideonline.com/road/road-racing/technical-faq-weight-distribution-compatibility/




